2019.7月号
ナビゲーター/MOMOKO

東鶴酒造


スッキリしているのに柔らかく、米の旨味がしっかりと感じられる味わい。それが東鶴の日本酒だ。

毎年一升瓶で2万本を出荷しており、佐賀の酒としての知名度も高い。創業は1830年。この多久という土地柄、豊富な米と美味しい水に恵まれていたことから始祖は酒造りを始めた。しかし、実は東鶴酒造さんは25年ほど前に一度酒造りを止めていたことをご存じだろうか? 6代目の現社長・野中さんがこの蔵を復活させたいと10年ほど前に一念発起。再起を図ったのだ。


野中さんが目指すのは米の旨味をしっかりと感じられて、なおかつ綺麗なお酒。飲み口はなめらかで優しい。造り手の愛が感じられるお酒だ。

しかし美味しいお酒を造っても、出荷した後の管理が行き届いていないと美味しくなくなる。だから酒屋さんをしっかりと選定し、きちんと管理してくれるところにしか卸さないのだという。現在佐賀県内では佐賀市内を中心に、鳥栖、唐津、鹿島など10軒ほどの酒屋さんに出荷しているそうだ。

復活の蔵、さらなる挑戦
6代目 野中保斉さん



ここは〝 東〟多久町。日は〝東〟から昇る。その〝東〟の文字と縁起の良い〝鶴〟から「東鶴」という名が付いた。 野中さんは四兄弟の次男。もともと日本酒に興味がなく、後を継ぐつもりはなかった。焼肉屋さんで働いていた当時、銘酒・万齢を製造する「小松酒造」さんへ足を運んだ折、その味の美味しさに感動を覚えたという。小松酒造の社長さんと話していく中で、家業を継ぐ決意は固まっていったのだった。

そして28歳の時、この蔵でもう一度酒造りをやりたいと両親に提案。東鶴酒造に再起の狼煙が上がった。2009年に酒造りを再開。“復活した蔵”として色んな方々が応援してくださったが、いよいよ〝味〟で勝負しなければならない時がやって来た、と野中さんは語る。

東鶴酒造の新たな挑戦

お酒を造るのに必要不可欠な「水」。以前から井戸水を使用していたがその井戸は10メートルほどと浅く、雨などの外的要因によって味の品質が変わることがあったそう。そこで2018年、直径20センチ、高さ100メートルの井戸を新しく掘った。設備投資に多額の費用がかかったものの、新しい井戸からくみ上げた水の美味しさを実感した時、これはいけると思ったと教えてくれた。


実際に井戸水を飲み比べてさせてもらった。「以前使用していた井戸の水はミネラル感が強いなと感じましたが、新しい井戸の水は口に入れた瞬間に柔らかく、優しくなめらかな口当たりです。こんなに違いが分かるものかと驚いています!」とMOMOKO。

酒造りの苦悩

目指す味わいを造り出すのは難しい。米の旨味を残そうとすると雑味も残ってしまうし、それをクリアにしようとすると旨味がなくなってしまう。その絶妙なバランスを意識しているそうだ。 
現在東鶴酒造で働くのは、社長兼杜氏の野中さん、お父様、お母様、奥様と従業員の5人。いわゆる家族経営だ。お母様は「酒造りを再開すると言い出した時、正直嬉しかったですよ。この伝統だけは残したいと思っていたので、不安よりもやって欲しいという気持ちの方が強かったです。」と話してくれた。


「何の知識もないままに嫁いだので分からないことだらけでした。でも挑戦しようと頑張る旦那は本当にすごいなと思いましたね。」と語るのは野中さんの奥様。小学4年、年長、6ヶ月の3人のお子様を育てながら、一丸となって酒造りに取り組んでいる。 

今後の展開

「やりたいことはたくさんあります。もちろんお酒の味も良くしていって、より多くの人に飲んでほしいと思っています。私たちが住む多久市には観光地となるものがありません。まだまだ自分たちのことで精いっぱいですが、ゆくゆくは、100年前のままでガタがきているうちの酒蔵を綺麗に改装して、多久の街に人を呼び込める仕掛けをしていきたいと考えています。」と野中さん。その先駆けとして、多久未来プロジェクトのメンバーが企画して2019年2月に発表されたのが「純米大吟醸 多久」。多久産のさがびよりと多久の水を使った独自のブランドで、野中さんが製造を手ほどきしたそうだ。


商品の紹介


※表記は全て税抜き価格となりますのでご注意ください。

使用する水が変わったこともあり、今年からラベルもリニューアルされた。形は四角と丸の二種類。四角は定番商品で丸は春夏秋冬、季節ごとに発売される商品だ。

夏:蝉しぐれスパークリング生(4合瓶)1,600円/春:薄にごり(4合瓶)1,500円

純米吟醸(4合瓶)1,600円/純米酒(4合瓶)1,300円

実は今年、もう一つリニューアルしたものがある。それはキャップだ。封切り後の品質劣化を改善するためにスクリューキャップから一升瓶で使う王冠口に変更し、一般的な物よりも幅を広げている。開封する際にその広い幅がとっかかりになるため手が痛くなりにくく、外しやすいのが特徴だ。消費者への気配りに愛情と優しさを感じる。 


酒蔵を見学させていただきました!



酒蔵の前には納品された空の一升瓶が積んであった。 

日本酒の製造過程は、洗米し、次の日に蒸し上げ、麹を作る。その後、その麹と蒸米、水、酵母菌を一緒にタンクに入れて約30日発酵させる。だいだい10月中旬から3月いっぱいまでこの作業を繰り返す。最初に仕込んだお酒は12月末に絞るため、およそ2ヶ月で出来上がる。

酒造りがない4月から9月は、片付けと蔵の掃除、そして営業。酒造りの期間は蔵の外に出られないため、4月から9月の間に酒屋さん意見を聞いたり、都市圏で行われる日本酒イベントに参加したりしているそうだ。

ラベルは手貼り。基本的に出荷作業は奥様とお母様が担当しているが、発売日などの忙しい時は1日600~700本のラベルを貼らなければならないという。デザインはデザイナーである高校時代の同級生と相談しながら作ったそう。シンプルだが日本酒の良さも残した和モダンなテイストだ。

こちらは作業場。ここでは洗米をしたり、米を蒸したりする。昔は釜土に石炭や薪をくべて使っていたそうだが、現在の熱源は全てボイラーを使用している。

重住さんは東鶴酒造で働いて4年目を迎えた従業員さん。なんと彼は埼玉県出身。社長は関東で行われた日本酒イベントで、日本酒の勉強のために来場していた重住さんと出会い、「ワンシーズンだけでもいいのでうちの蔵に手伝いに来ませんか?」と誘ったのだそう。そこから東鶴の日本酒の魅力に取り憑かれたらしく、「僕、この仕事は死ぬまでやると思います!」と語る重住さん。キラキラと目を輝かせて働く青年の、日本酒への情熱に胸を打たれた瞬間だった。

元々使用していた井戸水は今も汲み上げて、洗い用の水として使われている。

こちらの柄杓は昔から使われているのもで今もなお現役。一度に15リットルもの水を汲むことが出来るそうだ!

大きな洗濯機。こちらではお米を蒸したりする際に使用する布などを洗濯するためのもの。匂いが付いてしまうので洗剤は使わずに熱湯で洗うのだそう。

発酵用のタンクは7機。仕込みから30日程かけて発酵させていく。最も神経を使うのは、絞るタイミングを決断すること。甘辛の数値を参考にしつつ、状態を見極めるために唎酒をしてGOを出す。

たった1日ずれただけで味に差が出てしまう。1本当たりのロットが大きいため試作もできないし、1つのタンクをダメにしてしまうと出荷数も左右されるため、全ての責任が杜氏にのしかかる。

お米は白石町の契約農家さんが作る山田錦を使用。山田錦はお米の中でも一番クオリティーが高い。その分価格も高いが私たちが目指すお酒にはぴったりなのだと野中さんは語る。

出来上がったお酒の品質管理も重要。この大きな冷蔵庫に一升瓶が1万5千本入っている。5℃の冷蔵庫の中で凍えるMOMOKO(笑)

また、東鶴酒造ではスパークリングの日本酒も製造している。炭酸ガスを入れるのではなく、生きたままの酵母が瓶の中で活動することによって自然に発生する炭酸ガスを利用しているのだ。管理が難しい商品ではあるが、日本酒が苦手な人の入り口にしてほしい、敬遠される夏場でも爽やかな日本酒を楽しんでほしいという想いから製造を始めたそうだ。これからも東鶴酒造の挑戦は続く。ぜひ東鶴の日本酒を手に取ってみて欲しい。

名称

東鶴酒造株式会社

住所

多久市東多久町大字別府3625-1

TEL

0952-76-2421

HP

東鶴酒造 ホームページ

アクセス

多久ICより車で約5分

JR東多久駅より徒歩約20分