2018.3月号
ナビゲーター/IZUMI & MOMOKO & MAKI

壯明窯



壯明窯は創業20年。父、母、息子の3人がそれぞれコンセプトの違う個性溢れる作品を作っている点において珍しい窯元と言えよう。今回は父・好文さんと息子・壮さんの2人をクローズアップ。お二人は陶芸家として活動を始めたきっかけが全く違う。創業者である父・好文さんはメーカー勤務ののちに陶芸の楽しさと出逢いメーカーを退職後、49歳の時に思い切って開窯。壮さんは学校で陶芸の基本と言われる「ろくろ」を学び始めた所から、陶芸の世界へ足を踏み入れた。

親子がそれぞれの作品に影響を受け、口には出さずともお互いに高め合いながら作陶にいそしみ、素晴らしい作品を作り上げている。お話を伺う中で垣間見える親子ならではの信頼関係にグッと胸が熱くなった。

IZUMIも、どれも可愛い~と目を輝かせていた。

窯元プロフィール



浦郷 好文さん/69歳
  • 日展会友/日本新工芸家連盟会員/佐賀県陶芸協会会員

気さくで物腰の柔らかい好文さんは御年69歳。陶芸作家が歩んできたこれまでの道のりは長いようで短かった。昭和56年からこれまで数々の素晴らしい受賞歴をお持ちだ。
下記、代表的な陶歴。

  • 昭和62年 九州山口陶磁展 NHK佐賀放送局長賞
  • 昭和63年 九州新工芸展 佐賀県知事賞
  • 平成元年 日本新工芸展 北九州美術館賞
  • 平成2年 日展初入選 以後22回入選
  • 平成2年 西日本陶芸展 長崎県知事賞
  • 平成17年 佐賀県展 読売新聞社賞
  • 平成19年 九州山口陶磁展 佐賀新聞社賞
  • 平成20年 西日本陶芸美術展 サガテレビ賞
  • 平成24年 西日本陶芸美術展 佐賀県知事賞
  • 平成24年 九州新工芸展 会員の部 大賞
  • 平成25年 日本新工芸展 帖佐美行記念賞  ほか多数の受賞歴

大胆な絵付けと斬新な形



18歳から49歳まで有田の窯元メーカーに勤めた好文さん。メーカーに勤務しながらご自身で作った作品を展覧会に出品してたという。当時、工業製品の焼き上げる前段階での検査を担当していたが、26歳で美術部門に異動希望を出し、そこでモノ作りの楽しさ、面白さに出逢ったそうだ。「いつかは自分で窯元を」という思いを持ち続け、思い切って独立し早20年。初出展は32歳の時に県展へ、42歳にして念願の日展(日本美術展覧会)への出展を果たした。
20年という歳月をもってしても、自分の作品に自信は持てていないと謙虚な姿勢を崩さない。しかし「自分らしさ」を創造したいという熱い思いを持って、常に新しい感覚で作品と向き合いっている好文さん。絵を彫り込み、呉須で濃淡を付けて描かれた大胆かつ可憐な草花の絵付けと、固定概念を持たない自由な発想から作り出される斬新な形で、見る人を魅了する。

一番感情が高ぶるのは窯を開ける瞬間

作品はろくろで成形し、乾燥させて彫りを入れ、焼き、絵付けという工程で出来上がる。1つの作品が出来上がるには約1ヶ月程の時間を要するという、なんとも根気のいる仕事だ。完成するまでの取り扱いの中で壊れてしまったりすることもあるので、作るもの全てが完成に辿り着くわけではない。


焼き上がって窯から出てきた作品を見て、ここをもっとこうしておけばよかったな~と反省することも多いそうだ。毎回、窯の中で育つわが子と対面する瞬間に、楽しみと不安が入り混じる、本当にドキドキする瞬間なのだと優しく目を細めて微笑む姿が、なんとも印象的だった。窯元メーカーの同僚だった奥様のお姉様からの紹介で奥様(みどりさん)と知り合い、27歳の時に結婚された。

結婚をきっかけにみどりさんも作品作りをするようになり、お互いに好きな焼き物に囲まれた生活を送っていらっしゃる。

窯元プロフィール



浦郷 壮さん/36歳

目の奥に秘めた熱い思いに、陶芸作家の魂を感じた。優しい笑顔の裏には陶芸家ならではの苦悩が隠れているのかもしれない。作品の特徴は、白磁に走る美しい流線美。うっすらとブルーが色付き、それは永遠に続くかのようなループの神秘さを醸し出している。
下記、経歴と平成23年以降の主な受賞歴。

  • 平成16年 九州産業大学芸術学部を卒業
  • 平成19年 県立有田窯業大学校短期ロクロ科卒業
  • 平成20年~ 武雄温泉新館やきもの体験工房主宰
  • 平成24年 国家認定手ロクロ一級技能士検定に合格
  • 平成27年 佐賀県美術展 佐賀県知事賞受賞
  • 平成28年 田部美術館賞「茶の湯の造形展」大賞受賞
  • 平成29年 日本陶芸展 初入選

白磁に浮かび上がる青の流曲美


窯元の息子として育った壮さんは、23歳頃までは絶対継がないと言ってたそうだ。九産大の芸術学部で工業製品のデザインを勉強。卒業後は就職難でデザイン関連の仕事が見つからず営業職に就職したが、面白みを見いだせなかった。ちょうどその頃、両親から焼き物の勉強をしてみないかという言葉を受け、安易な気持ちで窯業大学校へ入学。しかし勉強をしていくと「ろくろの虜」になった。同志たちにも恵まれ、陶芸が楽しくなった。この道でいく覚悟が決まった瞬間だ。
大学校を卒業したのち、有田焼大物成形ろくろ師を祖父に持つ白磁の奥川俊右衛門先生が開いている教室へ。現在、壮さんが作る白磁は師の影響を受けているのだ。国家技能検定1級は2012年、31歳のころに取得。この試験はまぐれで上がるようなものではないほど狭き門。実技試験と筆記試験に分かれており、実技では制限時間4時間半の間に瓢箪型の壺を4点、30センチの平皿を4点、蓋つきの壺を4点を作り上げる。焼き上げる前と焼き上げた後に厚み、サイズを見られて、合否が決まる。個人情報の関係で公表されてはようだが、おそらく壮さんが最年少での取得だろう。
 


作品の構想を練ることに多くの時間をかける。「迷いが多すぎる時の作品は見れたもんじゃありません」と苦笑いの壮さん。展覧会の年間スケージュールはおおよそ決まっていて、そこに向かって作品を作らなければならない。しかし、そうとは分かっていても納得のいく構想に至らなかったり、期限のギリギリになったりする。陶芸家の苦悩とはこういうことを言うのだろうか。やっとの思いで展覧会に出しても、展示会場の照明や雰囲気に映えなかったり、他の陶芸家さんの作品と比較した時に自分の作品に恥ずかしさを感じることも少なくないそうだ。

こだわりは捨てない。と力強く語る壮さんにドキッとした。壮さんが出展している陶芸展や伝統工芸展はかっちりとした作品が基本だけど、見ての通り縁が真っ直ぐではなく曲線になっている所など、自分らしさを加えアレンジを効かせているのが壮さんの作品だ。伝統工芸っぽくないと指摘されることもあるが、信念は曲げない。自分らしさは崩さない。と作品とは裏腹な、真っ直ぐとどっしりとした芯を心の中に秘めていた。

作品を見た人に「この作品は浦郷さんのところの息子さんの作品だねと認識されるようになりたい」となんとも素敵な言葉を残してくれた。父が築いてきたこの窯があるからこそ存在する自分の価値とでもいうような、胸を打つフレーズに鳥肌が立った。白磁に曲線で自然な「流れ」をイメージした作品。縁の部分は狙ってゆがませている。

壮さんの作品は見る人の邪念を洗い流してくれるような、清々しい気分にさせる。製作中、窯の中で舞っているほこりが作品に付着し、焼き上がりにホクロのような黒い点ができてしまうことがあるらしい。白磁の特徴は真っ白であること。その黒い点があるだけで二級品扱いになってしまうから、焼く前の窯の状態には細心の注意を払わなければならない。壮さんは現在、天草陶土による磁器の焼き物作りや本格的なロクロと絵付け体験などができる陶芸体験工房も行っている。


展示ギャラリー


好文さんと結婚して奥様であるみどりさんも一緒に作品を作り始めたそうだ。みどりさんの作品はピンクに近い茶褐色の可愛らしい絵付けが特徴だ。この色は銅の還元を使って出している。絵付けには好文さん作品の影響を少なからず受けていると思うとにこやかな表情で語ってくれた。


可愛らしい絵付けの花瓶にIZUMIもうっとり。

3人の作品が棚に並ぶ目に楽しい空間だ。

半分ほど乾燥させた作品に穴を開けて作る燈。

美しいデザインのお湯飲みやお皿も。

作品名「青い風2016」

壮さんは島根県松江市で開催された第33回田部美術館大賞「茶の湯の造形展」で見事大賞を受賞。兵庫県以西18県の陶芸作家による作品376点の応募の中から、九州から初めての大賞受賞という快挙を成し遂げたのだ。


たくさんの作品に囲まれ、浦郷さん一家の胸熱くなるお話にモデルの3人も会話が止まらない!

佐賀県内には数えきれないほどの窯元があり、武雄市だけでも90ヶ所以上のにのぼる。そんな中でひと際目を引く、陶芸家3人の個性が溢れるー壯明窯。1つの窯から広がる可能性は無限大だ。これからの更なるご活躍を楽しみにしています!!
名称

壮明窯

住所

武雄市武内町大字梅野乙17035-3

TEL

0954-27-3263

営業時間

9:00~17:00

定休日

不定休

駐車場

3台

アクセス

武雄北方ICより車で約20分

武雄温泉駅より車で約10分