2017.11月号

青野 光治さん
テーマ パティシエール ブルーシャン代表


佐賀県初!
国が認めた1級技能資格を持つ菓子職人

洋菓子職人の世界には技術力を証明する認定資格は少ないが、今年3月、青野さんは洋菓子職人としては佐賀県初の1級菓子製造技能士に認定された。職業能力開発協会(厚生労働省の外郭団体)が認定する国の資格である。さらに、今年9月14日、技能検定1級認定者のみが認定される「ものづくりマイスター」としても認められた。ものづくりマイスターに認定されると、製菓学校や高校などからパティシエ派遣要請があった場合教えることができる。厚生労働省の制度で、技術が空洞化されている若者への継承(=人に技を教えること)を目的としているが、これまで佐賀には登録されているマイスターがいなかったそうだ。そして取材の直前には、公共職業訓練施設の先生(=職業訓練指導員)になれる資格試験を受けてきたという。1週間の講義を受けたのち確認試験に合格する必要があるそうで、まさに取材の前日試験が終わったばかりということだった。ちなみに、「自己採点ではたぶん満点」と笑顔を見せてくれた。

こうなったきっかけは、以前、佐賀マイスターや国のものづくりマイスターに推薦されたが、技能検定1級取得者が認定条件で、青野さんはその時は取得していなかったため認定されなかったことだ。そこで一念発起、かなりの勉強をして試験にチャレンジし、1級を取得。すると、県を超えて国の認定するものづくりマイスターとして認められたのだ。国のものづくりマイスター認定資格は123職種にものぼるが、こちらで認定しきれない職種をカバーするために自治体が作った補完制度が「佐賀マイスター」などに当たる。国が認定するものづくりマイスターは、垣根なく全般的な広い知識と技術が必要。一方、地方自治体のマイスターは、特産品や銘菓その一点の専門家などが、地域の自治体から認定される制度である。また、パン作りなど他の職種では特級などもあるが、菓子職人の技能検定では1級が最上位の認定となる。ちなみにフランスでは国家認定資格はMOFと呼ばれ、ショコラティエ・パティシエ・グラシエ・デセールなどと細分化されているが、日本の認定資格は全般に及ぶ総合的な知識と技術がなければ取得が難しい。青野さんはその難関を乗り越え、佐賀県にとって初の快挙を成し遂げたのである。


青野さんは大牟田のご出身


生家は和洋菓子店であったが、神戸の有名なケーキ屋さんでの修行から洋菓子職人としての道が始まった。最初に修行したお店は、かつて神戸で有名だった「スイス菓子 ハイジ」。県内に数店舗を展開し年商も20億円を超える人気店であった。ケーキ作りの基礎も何も分からないまま飛び込んだ青野さんは、関西弁という壁や知識の少なさもあって先輩・同僚の間で随分と苦労した。今では問題になるであろうパワハラ的不条理の中、それでも愚直なまでに誠実に粘り続けたという。ある時、自分のミスでケーキの生地の送り先を間違えてしまったので、その日のお店の仕事が終わった後、番重に不足分のケーキ生地を入れ、電車とバスを乗り継いで相手先まで届けたこともあったそうだ。しかし、そのことが相手先の心を打ち、以来、可愛がってくれるようになったという。まさに青野さんの頑張りを物語るエピソードである。

この話には続きがあって、実はその相手先とは小山さんという、後に日本でも有数のパティシエとして名を馳せている凄い人なのだった。青野さんにとって、まさに師匠と呼ぶに値する人である。当時、小山さんは若干23歳にして1店を任されている店長であったが、20歳前の青野さんのまじめさを気に入り可愛がってくれた。青野さんは、小山さんから基礎となるたくさんの技術と知識を学ぶことができたという。そのおかげで悔しくも辛い修行を乗り越えて来れたとも話してくれた。現代では、嫌なことがあるとすぐにやめてしまう若者が多いという話をよく聞くが、本当に夢を叶えたいならば、青野さんのように歯を食いしばり涙をこらえ邁進する決意がなければ、人生の成功とはあり得ないんだな、とお話を伺いながら実感した。ちなみに、青野さんは神戸で6年、その後、ホテルなどの修業を数年経て、いよいよ独立開店した。


芋焼酎「海」の生チョコ



他にも「万暦」と合わせたシリーズもある。青野さんは、この焼酎を使った生チョコを完成させるまでにかなりの日数を費やした。カカオの香りに負けない、でも喧嘩しない、うまく互いが融合できるような配合を数十回も試したという。最初は「度数が高ければ香りが立つのか?」とも考えたが、直ぐにそうではないことを知った。

チョコレートも、カカオの品質が高いものはその香りが際立ち上手く日本酒と合わなかったそうだ。だから、使いたいお酒に合わせ世界各地からチョコレートを仕入れては試し、今の商品が出来上がった。青野さん、苦心の大作である。それだけに、口に入れた時の風味は、まさにそのお酒を味わうかのようで「フワッ」と鼻孔に抜けていき、舌の上でチョコレートが溶け始めると後追いでカカオがやってくる。

程よい甘さと重なり、まるで上品なカクテルのようだ。余談だが、ベルギーやスイスからたくさんの品種のチョコレートを使用しているので、お店のスタッフさん達は品名を覚えるのが凄く大変なんだとか。


鳥栖市弥生が丘「ブルーシャン」



ブルーシャン  今年で13年になる「ブルーシャン」。店のまわりは青野さんが開店した当時は鳥栖プレミアムアウトレットもなく、閑散とした新興住宅地だった。青野さんはこの場所に10年後の発展を感じたという。先見の明ありだ。

美しく美味しそうな「プチガトー」が人気だ。

北欧スウェーデン産紅茶「セーデルブレンド」を贅沢に使った生チョコ


セーデルブレンドは、ノーベル賞の晩餐会で国王から招待者に振舞われるお花の香りの紅茶。北欧は一年の半分は雪に閉ざされた国が多い。子供たちはネット授業を受けるなど家から出られない日が多い生活環境だから、“室内をいかに楽しむか”が工夫されてきた文化を持つ。よって、北欧産家具などはデザインなども洗練され楽しいものが多い。そんなスウェーデンで作られた香り高い紅茶を使った生チョコは、本当にとろける旨さだ。

菓子職人になろうと飛び込んだ当時、ホテルで修業を始めた頃の事を思い出すと、青野さんは常に負けたくない気持ちを勉強することで補ってきた。その実直な性格が青野さんのコンプレックス心に火をつけ、努力することを怠らなかった。その結果が、佐賀県で初の快挙に繋がったのだろうと感じた。

KENTO編集長の所感


今回はパティシエの青野さんにいろいろとお話を聞かせていただきました!とても人間味のある方で、どんどん引き込まれていきました!青野さんの魅力はなんといっても経験の豊富さだと思います。有名チェーン店から有名ホテル、そして町のケーキ屋さんとほとんどのジャンルのお店で修行をされたこそのバランス感覚が、今の青野さんを作っているのだなと感じました。成功の裏に隠された数々の失敗。そこから謙虚に前向きに再チャレンジする。人との出会いを大切にする。などなど…。今からパティシエなどの職人さんを目指す若い人達は、青野さんから謙虚にひたむきに学ぶ姿勢など多くを学べると思います♪ぜひお店に行って、時間がありそうな時にお話伺ってみてください★そして今回佐賀で初の快挙である、国の1級菓子製造技能士、ものづくりマイスターに認定されたということで、佐賀のスイーツ文化の向上にもどんどん貢献されていくと思います。ぜひぜひ佐賀がスイーツでも有名な県になることを祈っています!今日はありがとうございました!