≪第20話≫ 私の失敗談①
ストローハットの苦い思い出
今回は〝失敗〟のお話をしましょうか。70年間、「モードファッショングループ」を続けるにあたっては失敗や、うまく行かなかったことが沢山ありました。
下の写真は、若い頃の私がつばのある帽子をかぶって、ポーズをとっていますね。お店と子育てで毎日、目が回るほど忙しくて、どんなに食べても太れなかった時期です。体重は37、8キロまで落ちていました。
この写真の帽子を見て思い出すのが、主人が大阪で見つけて買い付けてきたストローハットのことです。その当時、おしゃれな新商品でした。1960年代に活躍したオードリー・ヘップバーンやブリジット・バルドーのような世界的に有名な映画女優さんたちは、ウエストをキュッと絞ったワンピースにつば広のストローハットを合わせたりして、かっこよく見せてくれました。特にブリジット・バルドーはギンガムチェックのワンピースがトレードマークで、ストローハットにもギンガムチェックのリボンを巻いたりするところが、おしゃれ上手なフランス女性の小粋な魅力を感じさせ、世界中をとりこにしていました。
つばの広いストローハットはいまでも、エレガントさを感じさせるファッションの一つかと思います。1960年代は映画が大きな娯楽でしたから、オードリー・ヘップバーンやブリジット・バルドー、グレース・ケリーといった映画スターたちが身に着けるものや髪形や小物から、時代の流行が生まれました。映画はおしゃれのお手本でした。
売れなかった流行の帽子
いまはもうなくなりましたが、鹿島にも鹿陽館という映画館がありました。お店の仕事が終わった後、主人は毎日のように映画を見に行っていましたよ。私も子供たちにご飯を食べさせた後、鹿陽館にナイトショーを見に行くこともたまにはありました。それがささやかな楽しみでもありました。
そんな頃、大阪に買い付けに行って、リボンや花をあしらったエレガントなストローハットを見た主人は、「これは絶対に人気が出る!」と鹿島に持ち帰りました。私も同じ意見で、「きっとお客様が手にとって下さる」とわくわくしながらお店に並べました。
ところが、これがぜんぜん出ないんです。「おかしいなあ。思ったより目立たないのかしら」と思い、並べる棚を変えてみたり、マネキンにかぶせてみたり、あれこれ工夫しても売れません。これには困り果てました。「絶対に売れる」と見込んだものですから、数も多く、仕入れてしまっていたんです。それがぜんぜん売れないとなると、お店の売り上げにとっても大打撃です。
失敗がやがて「経験」になります
残念ながら、このストローハットは最後まで売れ残ったままでした。何がいけなかったのか、いま考えるとわかるんですよ。「モード」は佐賀の鹿島で暮らすお客さんに向けて、ファッションを楽しんで頂くことを目指しているお店です。そこで流行の最先端だからといって、西洋の映画女優さんがかぶるような帽子をいきなりご提案しても、結果は出ないんですね。
東京や大阪のような都会ならいざしらず、周りは知っている人ばかりの鹿島で、リボンや花のついた流行の先端すぎるスタイルの帽子をかぶって出歩きたいと思う女性はいなかったということでしょう。
いくら商品自体が素敵でも、それを身に着ける機会や行く場所がなければ、お客様に喜んではいただけません。うちのお客様たちは何をお求めになっているか、そこをもう少し考えないといけなかったんですね。そういう意味ではあのストローハットは大失敗でした。
私も主人もまだ若く、意気込んで売りに出した帽子が売れなかったのは悔しくて、心残りでした。すぐにお店から下げる気にならず、最後まで壁にディスプレイのように飾ってみたりしました。
お店のディスプレイを撮った写真はほとんどないんですけれど、このときのものは残っていますよ。特別な「売れなかった記念写真」ですね(笑)。
最初にご紹介した私が帽子でポーズをとっている写真も、たしか、売れ残った帽子をかぶって撮ったんじゃなかったかしらと思います。ちょっとやけっぱちだったかもしれません(笑)。でも、失敗もうまく行かなかったことも覚えておいて、次に生かすことは大事ですよ。それが「経験」になりますから。