≪第27話≫
お店を長く続けていくのに
一番大事なのは「人材」です①
先日、めずらしく夢を見ました。いつもは一度寝たら、そのまま朝までぐっすり眠って、夢もほとんど見ないんですけれど……。それは楽しい運動会の夢でした。自分が若い時のではなくて、ひ孫たちの幼稚園の運動会です……色紙で作った旗が飾りつけてあったり、子供たちが元気に走り回ったりして、にぎやかでしょう? 「ああ、楽しいなあ」と思って、その気持ちとともに目が覚めました。
ファッションを通して夢とロマンを伝えていく
賢人が小学校6年のときに発表した作文があります。いまから20年前です。
ぼくの夢
ぼくの夢は、父がやっている洋品店をつぐことです。この店は、五十年前、おじいちゃんとおばあちゃんが始めました。戦後、着るものが少なかった時代、洋裁が出来たおばあちゃんが、近所の人から頼まれて洋服を作ったのが、きっかけだそうです。又、引き揚げ者のおじいちゃんは、絵を描くのが好きだったので、毎晩夜遅くまで、店の看板などを作ったりして、たった三坪の店を少しでも大きくしたいと、一年中一日も休みなく、働いたそうです。
そのおじいちゃんは、五年前になくなりましたが、おばあちゃんは七十七才になった今でも、元気にお店に出て、父と母と一緒にがんばっています。
ぼくは、毎日、父が仕事をしている姿を見ると、忙しくて大変そうだなと思いますが、父は「お客さんや社員の人たちが喜んでいる姿を見ることに、生き甲斐や、やりがいを感じる。」と、話します。
今年も元旦から、休みなく仕事をし、出張の時は、朝早く出て、深夜に帰って来ることも多いです。ぐちも言わずに、仕事が、趣味のようにもくもくと働いている姿は、えらいなあと思います。又、母は、小さい頃から、店の手伝いを良くしたそうです。だから、ぼくも出来ることは少しでもお手伝いしたいと思います。そして、大人になったら、父のように、やりがいをもってがんばりたいと思います。
これからのぼくたちの時代は、世界に目を向けて、全世界の人と仲良くしてく事が、大事だと言われています。
洋服は、外国で生まれ育ったものです。その中には、いろんな国の文化や歴史があり、それを考えると、ぼくは、興味で胸がワクワクしてきます。英語を一生懸命勉強して、世界中をまわり、ファッションの楽しさや、魅力を自分の目と心で感じ取りたいです。そして、それを鹿島の人たちに紹介したいです。多くの人たちに喜んでもらえるような、ぼくにしかできない洋品店を作っていきたいです。「ファッションを通して、夢とロマンを追求していく。」これがぼくのこれからの大きなテーマです。
この頃、すでに賢人は、お正月の売り出しの時は必ず、自分が率先して福袋を熱心に売っていまして、「福袋部長」というニックネームがついていました(笑)。早稲田大学在学中に、「ロンドンでファッションの勉強をしたい」と留学しました。卒業後、東京の証券会社やアパレル企業でいろいろな世界を見て、鹿島に帰ってきて毎日、私たちと働いています。娘の麻貴は、「お母さんと賢人は、ファッションそのものが大好きなところが似てるね」と申します。
次の世代に心をつないで
最近の賢人は、「アート」の面白さに夢中のようで、アートとファッションをテーマにした70周年記念のイベントを企画したり、仲間たちと佐賀を元気にすることを考えて、佐賀の魅力を発信するインターネットマガジン「SAGARICH(サガリッチ)」を立ち上げて、運営しています。時代の流れに敏感で、新しいことにどんどん飛びついていくところは、主人と似ていますね(笑)。
主人は賢人が小学1年生のときに他界しましたが、小さかった賢人が朝、幼稚園に出かけていく時は、抱き上げて、自分の両足の上に賢人の小さな両足を載せて、「おいっちに、おいっちに」と言いながら、二人三脚で玄関まで歩いて行ったものです。何事も軍隊式で、私たちには厳しい主人でしたが、賢人には甘いおじいちゃんでした。
私はあまり昔のことを思い出して、あれこれ考えるほうではありません。そのとき、そのとき、ただ必死で働いてきたと思っていますが、孫がそれを見て、良いことだと思ってくれる、「子供は親の背中を見て育つ」と申しますが、新しい時代の風を入れながら、若い人たちが私と主人が作ったモードの心を、次の世代につないでいこうとしている姿はとても心強く、嬉しく感じます。