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MICHIKO’S BLOG

2019年12月1日

≪第3話≫結婚、そして大連へ。(前編)


主人、東島四郎は私の遠縁にあたる人で、白石(しろいし)という鹿島から車で20分ほどの町の出身でした。戦時中は、主人の両親が中国大陸の大連(だいれん)で鉄工所をしていた関係で、大連一中を卒業しています(注:戦前の中学校は、戦後の高等学校にあたる。大連一中は1918年に中国大陸の関東州に設立され、黒澤映画で世界的に有名な俳優の三船敏郎さんや、映画「寅さん」シリーズの山田洋次監督もこの学校の出身)。
旧制中学の頃の主人は一時期、鹿島市の私の実家、料亭「清川」の近所で「香月パン」というパン屋さんをしていたおばさんの家から、旧制鹿島中学校(いまの鹿島高等学校)に通っていました。このおばさんがのちに、うちの両親に「道子さんを四郎と結婚させたらどうだろうか」と勧めたようです。昔はそういうふうに、結婚や就職のときに、親類や知り合いの世話を熱心に焼くおばさんたちが、あちこちにいたものでした(笑)。

慰問袋がつなぐ縁


主人は私より4つ、歳上でした。親類といっても、縁談が持ち上がるまではちゃんと会ったことはなく……もし、会っていたとしても、親戚の大きな集まりなどで、記憶に残らない程度でした。そもそも、結婚するきっかけになったのは、戦争中の「慰問袋(いもんぶくろ)」です。
慰問袋といっても、いまの若い方はおわかりにならないかもしれませんねえ……戦時中は、戦地に行っている兵隊さんの親類や知り合いが、着るものや食料品を専用の袋に入れて戦地に送ったんです。

独身時代の四郎。趣味のギターも背後に見える。

この袋のことを、「慰問袋」と呼んでいました。主人と私とは親戚筋にあたりますので、私も衣類を縫ったりして慰問袋を送っていたんです。それで、香月パンのおばさんが、「2人を結婚させたらどうだろうか」と話を持ちかけたというわけです。

3人姉妹の真ん中


私は4人きょうだいです。上から3人姉妹で、私は真ん中。姉の幸代(さちよ)と妹の勝代(かつよ)とは2歳ずつ離れています。一番下が弟で、私とちょうど一回り、12歳歳の離れた平一郎。すでに3人とも亡くなりまして、淋しいですね。


1939(昭和14)年のお正月。左から妹の勝代、数えの15歳姉・幸代19歳、道子17歳。平一郎5歳。

娘の結婚、に関して、両親はとても悲しい目に遭(あ)っていました。姉の幸代が嫁いだのち、22歳の若さで世を去っていたのです。姉は本当にきれいでねえ、何でもできる人でした。姿かたちもよく、歌も踊り(日本舞踊)もとっても上手で、「東京で本格的に修業するつもりはないか」とお話がくるほどでした。とくに声がよかったので、催し物があると、なにかと皆さんの前で歌を披露しておりました。ついたあだ名は「鹿島の天津乙女(あまつおとめ)」です――天津乙女さんというのは、当時の宝塚少女歌劇団のトップスターの名前です。
「清川の娘は、幸代ひとりがおったら、他はもういらんぐらいだなあ」とお客様にも言われていました。妹の勝代はテニスの名手で、全国優勝をいたしました。テニスの話はまたあとで出てくると思います。私はすぐれた姉と、スポーツが得意で活発な妹に挟まれて、どちらかというと影は薄かったんです(笑)。子どもの頃は体も弱かったので、きょうだいの中で私が一番長く生きるとは、思いもしませんでした。

娘時代の道子。

両親にとっては自慢の娘、私たちに妹にとっては頼りになる存在の姉・幸代は、鹿島高等女学校を卒業後、結婚して、満州に渡りました。満州の中でも北満(ほくまん)と呼ばれていた奥地のほうへ、長い時間、汽車で揺られて行きました。鹿島は気候の温かい九州にあります。九州に比べると、満州はただでさえ、気候が冷たいところですが、一番寒い時期に行ったもので姉は風邪を引いて、それをこじらせて、病気になってしまいました。
「ここにいては治らないから」と治療のために鹿島に戻ってきました。実家の清川でしばらく養生していましたが、結局、亡くなりました。私がはたちになった年でした。

思いがけない形で長女を失った両親の嘆きはとても深かったのです。次女の私の結婚について、「できるものなら、相手は知らない人より、縁続きのほうがいい」と考えたようでした。親類であれば、結婚後の生活の場所や、あちらの家族についても想像がつきます。それに結婚後の生活も、ある程度、自由が利くだろうと。それで主人との縁談が持ち込まれたときに、結婚が決まりました。
 
娘の麻貴(まき)は、「お父さんとお母さんの結婚は、慰問袋がとりもつ縁だったねえ」と笑うんですけれど(笑)。
 
インタビュー・文/樋渡優子
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