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2020年8月30日

≪第30話≫家族が語る東島道子②(中編)
「正しく生きる商人に誇りを持て」——
私と両親をつないだ倉本長治先生の教え


山口健次郎<㈱モードファッショングループ代表取締役社長>

会社員を辞めて、モードグループに加わった私と、両親の共通点の一つに「商業界ゼミナール」があります。商業界ゼミナールは、義母(はは)の話にも何度か出てきたと思いますが、戦後、商業界の倉本長治先生は、お客様を大事にする商いの道を提唱されたのです。

20歳を迎えた息子の賢人さんを囲む健次郎・麻貴夫妻と東島道子さん。
鹿島のサロンモードにて(2008年1月)。

それに賛同する多くの商業者たちが、新時代のビジネスに関する知識を求めて全国から集まって、昭和26年、学びの場として「商業界ゼミナール」が始まりました。両親がモード洋品店を開店したのも同じ頃ですが、義母は自分が勉強したことを鹿島の人に伝えたい、という思いで、このゼミナールに参加していました。ゼミナールは箱根など関東で年に一度、数日間にわたって行われていましたが、義母も毎年とはいかないまでも、義父とゼミナールに参加して、最新の経営法を学ぶ努力を重ねたそうです。

日本型ビジネスの基本となった「商売十訓」


私も前職の株式会社マイカルに勤務時代に、商業界ゼミナールに参加して倉本先生の教えに感銘を受けていましたので、商いの根本的な部分で「これが正しい」と思うところが、両親とは最初から一致していたんですね。

東島四郎氏。長年にわたって鹿島商工会評議員などを務めた功績により
鹿島市から表彰を受けて(1991年11月)。

倉本先生が説かれた「商売十訓」とは、

一、 損得より先(さ)きに善悪を考えよう
二、 創意を尊びつつ良い事は真似ろ
三、 お客に有利な商いを毎日続けよ
四、 愛と真実で適正利潤を確保せよ
五、 欠損は社会の為(ため)にも不善と悟(さと)れ
六、 お互いに知恵と力を合わせて働け
七、 店の発展を社会の幸福と信ぜよ
八、 公正で公平な社会的活動を行(おこな)え
九、 文化のために経営を合理化せよ
十、 正しく生きる商人に誇りを持て

の10か条です。いまの基準から見れば、当たり前のことを言っているように感じられるかもしれません。それはとりもなおさず、倉本先生の理念が戦後、広く影響を与え、日本型ビジネスの基礎となったからでしょう。

平成17年、嬉野で「商業界九州ゼミナール」を開催


お客様を第一に考え、正直な商いをすることに誇りをもつ。この理念を実践するには、最先端のビジネスの仕方を絶えず勉強して、取り入れて行くーーモードに入ってからも「商業界ゼミナール」に参加しましたが、志を同じくする全国の方たちとのご縁は私にとってかけがえのないものです。
平成17(2005)年9月には、第40回商業界九州ゼミナールを、私が実行委員長を務め、嬉野の和多屋別荘で開催しました。倉本初夫先生(「商業界」主幹)、古川康佐賀県知事、アシックス会長の鬼塚喜八郎氏やニチイ(マルカイ)創業者夫人・西端春枝氏(役職はいずれも当時)をはじめ、全国から時代をリードする多彩な講師陣をお招きして、2日間にわたってゼミナールは行われました。

ルイ・ヴィトン本店の前に立つ健次郎社長。

この時、モードグループは創業56年。倉本先生に学んだ〝正しい商い〟を長年続けてきて、こうして佐賀の地元で商業界ゼミナールを開催できて、本当に喜ばしいことでした。若い頃から義父と一緒にゼミナールに参加した経験を持つ義母にとっても、同じ思いだったと思います。
「BIGよりGOOD」(大きいことより良いことを目指す)
「店がブランド、人がブランド」(ブランドを売る店ではなく、それぞれの店舗がブランドであると共に、スタッフひとりひとりがブランドとして際立つように)というのがモードグループのモットーです。これも倉本先生の「商売十訓」をベースとして、モードならではの経営理念が込められたものと言えるでしょう。

世代別・テイスト別に狙いを定め、店舗を増やす


私が義父に感謝しているのは、私と麻貴がすることに一切、口出しがなかったことです。伸び伸びさせてもらいましたし、とても動きやすかった。自分が作った会社で、娘婿にこれほど自由にさせる例はほとんどないんじゃないかと思います。
義母もまた、まったく強制しませんので、かえって、より一生懸命、会社のこと、先々のことを考えてきたかもしれません(笑)。周りから「モードさんは、ほとんど失敗がないですね」と言われることがありますが、確かに冷静かつ客観的に、次の戦略を考えてきました。

常務を務める妻・麻貴さんとは、仕事でも家庭でも仲良く二人三脚。

店舗を増やす時に、人任せにしないこと、「自分たちの目の届く範囲で」ということも心掛けてきました。たとえば、鹿島という範囲内でできるだけ幅広い客層をつかむために、ヤング、ヤングミセス、ミセスといった世代別ターゲットに加えて、キャリア、ファミリーなどテイスト別の店舗を展開していったのも、うちは早かったと思います。
みんなモードの店舗だけれども、それぞれターゲットを定めて、お客様に的確にアピールする。人口の小さな商圏で、より多くのお客様をモードの店に足を運んでいただけるように。
義母がお店に出ている「サロンモード」本店では、1階・2階の500平方メートルの店舗に、約30社のブランドを扱っています。やはりその地域で抜きん出ていなければ、全国的に人気のあるブランドの販売は取れませんので、そこは力を入れてきました。そうした努力を日々積み重ねて、鹿島市から隣接する武雄市のショッピングセンター(ゆめタウン武雄)、そして県庁所在地である佐賀市にあるショッピングセンター(イオンモール佐賀大和、モラージュ佐賀、ゆめタウン佐賀)、佐賀駅前店へと、徐々に出店する範囲を広げていったのです。

インタビュー・文 樋渡優子
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