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MICHIKO’S BLOG

2020年7月20日

≪第26話≫ 金ちゃんうどん開店!④
ダニエルさんがやってきた(後編)


昭和44(1969)年夏、長男・秀行は1年を過ごしたパリから船、列車、バスなどを乗り継いで、日本を目指しました。帰ってくる途中、28か国も回ったようなんですが、インドで荷物やお金を盗られ、「身ぐるみ剥がされた」と連絡してきました。これにはヒヤリとさせられましたが、インドのJAL支店の支店長さんをはじめ、みなさんに助けられて、無事に日本に帰って参りました。

金ちゃんうどんでアメリカ人が働くことに


1年ぶりに会った息子は、お友達を一緒に連れてたんです。ダニエルさんというアメリカ人で、インドでの出来事のあと、旅の道中、知り合ったようでした。人懐っこい秀行のことですから、ダニエルさんと旅をしながら、とうとう佐賀まで連れてきちゃったんですねえ(笑)。
ダニエルさんはお若い方でした。学生さんで世界を旅して回っていたのか、時間はあったんでしょう。「せっかくここまで来たんだから、しばらくいたらどうか」「何もしないでいるのも手持ち無沙汰だろうから、金ちゃんうどんで働いたらどうだろう」という話になり、金ちゃんうどんでアルバイトすることになりました。

佐賀市松原にあった「金ちゃんうどん」は多くの人に愛される名店だった。

お店の前で息子とダニエルさんがはっぴを着た写真が残っていますが、いまから50年前のことです。県庁所在地の佐賀市でも外国人の方を見かけることはまれでしたし、ましてや、おうどんやさんで働いていた人はいないでしょう。

金ちゃんのはっぴを着たダニエルさんと、当時、お店を手伝っていた勝代(道子の妹)の長男啓介。

少年時代から旅行が好きで、気軽に誰とでも親しくなる長男だからこそ、ダニエルさんも佐賀までついていらして、しばらく滞在されたのだと思います。主人も高等学校から終戦まで外地(中国大陸)におりましたし、私も結婚直後に主人の両親や親類がいた大連に行って、2年弱生活をしましたので、外国の方には慣れているほうでしたね。

ダニエルさんも一緒に迎えたお正月。長女麻貴(左端)は当時、東京で大学に通っていた。

滞在中、ダニエルさんはお正月をわが家で迎えました。きっと日本のお正月は何もかもが珍しかったことでしょう。あれから50年経ちます。24歳だった息子が70代半ばになり……ダニエルさんも70歳にはなっておられるかと思います。
去年、モードが70周年を迎えるのにちなんで、昔のアルバムを見返していたとき、ダニエルさんの話も出ました。孫の賢人は初耳だったようでとても面白がりました。「インターネットで呼びかけてみたらダニエルさんが見つかるかもしれんよ」と当時の写真と英語の説明をつけて、インターネットに載せてみました。あいにく、まだ手がかりはつかめておりませんが、佐賀市には、金ちゃんに外国人の店員さんが一時いた、と覚えていらっしゃる方が、もしかしたらおいでかもしれませんね。

パリの友情をモードのショッピングバッグに


秀行がパリから持ち帰ったものの中に、一枚のイラストがありました。味のある線画で、恋人たちがキスしている絵柄です。モードの紙袋や包装紙には時代、時代で、いろいろなものを使って参りました。パリといえば世界的なファッションの都ですから、凱旋門からいくつもの通りが放射線状に広がっているパリの地図をあしらった黒と金の紙製のバッグを使っていた時期もありましたねえ。
あるとき、「この恋人たちの絵を使おうか」という話になりましたが、絵を描いたのは、秀行の知り合いでした。パリで仲良くなった画家志望の青年で、アーティストの卵が沢山集まるモンマルトルの丘で秀行とよく会っていたそうです。
いまと違って、パリの街で日本人同士が顔を合わせることも少なかったでしょうし、お互い、日本語で話すのも楽しかっただろうと想像しますが、帰国が決まって、「そろそろ僕は日本に帰る」と秀行が告げると、次に会った時に「じゃあ、餞別にこれをあげるよ」とその方が下さったのが、この恋人たちの絵でした。

パリの友情から生まれた“チューマーク”。いまもモードファッショングループのトレードマークに使われている。

「その後、このお友達の方は画家になっておられるかもしれないし、勝手に使うわけにはいかないから」と、その方の消息を探してみましたが見つけられず……モードの袋などに使わせていただきました。
昔はキスすることをチューすると言いましたので、モードでは「チューマーク」とこの絵のことを呼んでおります。パリの街角と恋人たち、自由で小粋な感じがおしゃれですね。
モードを続けてくるにあたっては、数えられないほどいろいろな出会いがありました。この絵を描かれた方も、金ちゃんうどんで働いたアメリカ人のダニエルさんも、世界のどこかでお元気でいらっしゃることを願います。

インタビュー・文 樋渡優子
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